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Supersemar(スーパースマール:3月11日命令書)
1966年3月11日付け命令書(Surat Perintah Sebelas Maret:略してSupersemar)は、当時の大統領スカルノが、混乱した国内情勢を回復させるために必要とされるあらゆる手段の実行許可を陸軍大臣・司令官だったスハルトに与えた命令書です。
この命令書を受けたスハルト将軍は、ただちにインドネシア共産党を非合法化。前年(1965年)の9/30事件以降各地で弾圧された共産党勢力は、ここに法律的にも葬り去られることとなりました。
この3月11日命令書は、暫定国民協議会(MPRS:一応、国権の最高機関とされた)の議決も経ない超法規的な命令書でしたが、その後の暫定国民協議会(1966年6~7月)で合法化されました。
以下、和訳と原文(インドネシア語)を掲載いたします。
(和訳)
インドネシア共和国大統領
命令書
I. 次のことを考慮し
- 1.1. 国内・国際政治状況ならびに革命の現状
- 1.2. 1966年3月8日付け軍最高司令官/大統領/革命大指導者(*1)の指令(*2)
II. 次のことを踏まえ
- 2.1. 政府の静穏と安定ならびに革命過程の必要性
- 2.2. 軍と国民が大統領/最高司令官/革命大指導者のリーダーシップと権威ならびにその指導を守るため、革命大指導者を完全に保障する必要性
III. 決断し命令する
陸軍司令官・大臣、スハルト中将に対し:
大統領/軍最高司令官/革命大指導者の名に於いて:
- インドネシア共和国統合のため、大統領/最高司令官/革命大指導者/暫定国民協議会権限受託者(*3)の個人的安全と尊厳を保障するため、行政過程ならびに革命過程の静穏・安定・治安を保証するために、必要と判断される全ての処置をとること、そして革命大指導者の指導全てを断固として実行すること。(*4)
- 他軍司令官たちと最善の方法で命令を実施すべく調整すること。
- 上述に関する任務・責務に関連することは何であれ全て報告すること。
IV. 以上。
ジャカルタ、1966年3月11日
大統領/軍最高司令官/革命大指導者/暫定国民協議会権限受託者
スカルノ
訳注
- 革命大指導者:原文「Panglima Besar Revolusi」。革命の偉大なる指導者といった意味でしょうか。スカルノによれば、当時は「新植民地主義(nekolim)」や「反革命(kontrev)」との革命闘争を継続中とされたのです。
- 1966年3月8日の指令:3月8日付けで“新植民地主義や反革命勢力によってインドネシア民族が分裂してはならない”という趣旨の指令をスカルノが出したと次のページに紹介されています。
HES: Revolusi, Surat Perintah 11 Maret 1966, dan Reformasi
- 暫定国民協議会権限受託者:原文「Mandataris M.P.R.S」。長ったらしい訳語ですみません。国権の最高機関たるMPRS(暫定国民協議会)から権力の行使を委託されている者、つまり大統領と同義です。
- この「III-1」項は、長たらしい文章でうまく訳せていません。英文Wikipediaに掲載されている英訳も参考にしてください。
Supersemar(英文Wikipedia)
大森実著「スカルノ最後の真相」新潮社(1967)に、このSupersemarの説明が記載されています。参考までに引用しておきます。
①スハルト将軍は治安、静穏ならびに政府機構の安定と革命の経過を保障し、スカルノ大統領の個人的安全と権威を保証するため、必要と考えられるいかなる手段もとるべきである。
②スハルト将軍はできるだけこの命令の実行について調整をはかること。
③国民は個人的行動に走らず、つねに秩序に服すること。
④国民は治安と公共の秩序を維持し、正常な日常生活を続けること。
⑤建設的であり、かつ革命に有害でない国民のすべては完全に満たされる。
同書p.200から
Semar(スマール)について
この命令書の通称“Supersemar”に登場する言葉「Semar」とはジャワのワヤンに登場するキャラクターの名前です。
ワヤン・クリッ(影絵芝居)に登場するSemar(バティック絵画)
当時の一般情勢について
9/30事件~3月11日命令書発行にかけてのインドネシア史については、次のサイトを是非ご覧ください。
インドネシア語原文
PRESIDEN
REPUBLIK INDONESIA
SURAT-PERINTAH
I. Mengingat:
- 1.1 Tingkatan Revolusi sekarang ini, serta keadaan politik baik Nasional
maupun Internasional.
- 1.2 Perintah Harian Panglima Tertinggi Angkatan Bersenjata/Presiden/Panglima
Besar Revolusi/pada tanggal 8 Maret 1966.
II. Menimbang:
- 2.1. Perlu adanya ketenangan dan kestabilan pemerintahan dan jalannya Revolusi.
- 2.2. Perlu adanya jaminan keutuhan Pemimpin Besar Revolusi, ABRI dan rakyat
untuk memelihara kepemimpinan dan kewibawaan Presiden/Panglima Tertinggi/Pemimpin
Besar Revolusi serta segala ajaran-ajarannya.
III. Memutuskan/Memerintahkan
Kepada: LETENAN JENDERAL SOEHARTO, Menteri Panglima Angkatan Darat
Untuk: Atas nama Presiden/Panglima Tertinggi/Pemimpin Besar Revolusi:
- Mengambil segala tindakan yang dianggap perlu, untuk terjaminnya keamanan
dan ketenangan serta kestabilan jalannya Pemerintahan dan jalannya Revolusi,
serta menjamin keselamatan pribadi dan kewibawaan Pimpinan Presiden/Panglima
Tertinggi/ Pemimpin Besar Revolusi/ Mandataris M.P.R.S demi untuk keutuhan
Bangsa Negara Republik Indonesia, dan melaksanakan dengan pasti segala
ajaran Pemimpin Besar Revolusi.
- Mengadakan Koordinasi pelaksanaan perintah dengan Panglima-Panglima Angkatan
lain dengan sebaik-sebaiknya.
- Supaya melaporkan segala sesuatu yang bersangkut-paut dalam tugas dan tanggung
jawabnya seperti tersebut diatas.
IV. Selesai
Jakarta, 11 Maret 1966
PRESIDEN/PANGLIMA TERTINGGI/PEMIMPIN
BESAR REVOLUSI/MANDATARIS M.P.R.S.
SUKARNO
注記
原文の出展
・書名:Susunan Dalam Satu Naskah UUD 1945
・著者:Drs.Marsono
・発行:CV.Eko Jaya, Jakarta 13410
ただし、この書籍では「I-1.2」に登場する1966年3月8日付け指令が「3月6日」と印刷されている。ここでは、「3月8日」へ訂正しています。
インドネシア語の綴りについて
当時は、接尾辞[nya]が[nja]と綴られるなど、今とは少々異なっていました。全て現代風に直していますので、悪しからずご了承ください。
当時の綴りによる原文はインドネシア語版Wikipediaに掲載されています。
Supersemar(インドネシア語版Wikipedia)
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2008年05月25日新着
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