地元の図書館にインドネシアの小学校歴史教科書(翻訳)がありましたので、その中の日本占領期について書かれているセクションを紹介したいと思います。
原本は小学5年生向けの「I」と同6年生向けの「II」からなる2分冊。日本語版では一冊に纏めれています。残念ながら出版時期は30年以上前のもの。そしてスハルト体制下の学校教育に使われていたものあることは、この教科書を読む上で考慮しておく必要がありそうです。
なお、「日本の占領」は全45章中の第40章(p.133-135)にあたり、小学6年生用の「II」に収録されているもの。高等学校や中学校向けの教科書に比べると、その記述の量は極めてわずかです。
上記書籍のp.133-p.135を引用いたします。
40 日本の占領
第二次世界大戦は1939年9月3日に勃発した。1940年にはデンマーク・オランダ・ベルギーそしてフランスがつぎつぎにドイツ軍によって蹂躙された。
オランダ政府はイギリスの首都ロンドンへ亡命した。オランダとインドネシアとの間の連絡が途絶した。蘭印政庁は孤立した。
ドイツはイタリア及び日本と同盟条約で結ばれていた。
いつか日本がインドネシアに進攻してくるであろうことは当時だれの目にもはっきりしていた。しかしオランダ人が余りにも尊大であったのでわが民族は当時一般にわれ関せずの態度をとり,オランダ人と一緒に祖国を防衛する義務はまったく感じなかった。
1940年にイタリアが参戦し,1941年の末に日本がこれに続いた。1941年12月8日に日本軍は攻撃を開始した。ハワイ諸島の真珠湾にあったアメリカ合衆国艦隊と空軍は麻痺状態となった。短期間の間にガム・ウェイク・香港・シンガポール・インドネシアそしてフィリピンがつぎつぎに陥落した。蘭印海軍と空軍を粉砕したのち,1942年3月1日に日本軍はジャワに上陸した。1942年3月8日に蘭印政庁は全面的に無条件降伏した。わが国は占領地となった。
当時のオランダ人は女性と子供を含めて捕らえられ捕虜収容所に入れられた。日本はアジアの光・アジアの保護者・アジアの指導者であると自己宣伝した。彼らは共栄圏を創造することを願望しているといい,東アジアと東南アジアのすべての民族に大日本の指導のもとに協力するよう呼び掛けた。協力への日本の提言は概してわれわれの指導者の歓迎を受けた。スカルノ・ハッタを含むほとんどすべてのわが指導者は日本を支援した。
日本の占領期間中わが国は互いに連絡のないいくつかの《スマトラとジャワが陸軍軍政地区,その他が海軍民政地区》地域に分離された。日本軍政府は厳しく残酷に統治した。彼らはすべての種類の情報に対して厳しい検閲を行った。手紙・演説・新聞記事とラジオ報道文が事前に審査された。占領期間中わが国と外国との連絡は全面的に途絶した。その当時われらが見聞したのはまったく日本の宣伝にほかならなかった。
数百万《一説に30万》人のわが青年が捕らえられて,タイ・ビルマといった外国で労務者(苦力)としてこき使われた。わが青年の大部分《一説に23万人》は再び祖国を見ることがなかった《後日,これらの人的被害は賠償請求の算定基準となる》。
日本は残忍でその行動は横暴であったけれども,占領時代はわれわれにとって利点もあった。
1.オランダ人が逮捕されたので,これまでオランダ人がにぎっていた職務がわれわれに任せられ,こうしてわれわれは高度の職務に経験を積んだ。
2.オランダ語が禁止されたので,インドネシア語が比類のない発展を経験した。
3.日本は青年団・警防団そして祖国防衛義勇軍(PETA)の隊列に加わったわが青年に軍事教練をほどこした。
これらすべては後日独立インドネシアを支えるためにわれわれが闘争した時,われわれにとって元手となった。
それはともかく日本軍は戦運から見放された。1942年末には力の限界に達した感があった。アメリカは反撃を開始した。一歩一歩日本は撃退された。幾回となく日本の艦隊はうち破られた。これら日本の敗北は当地においてつねに秘密にされた。
<写真>テル=ポールテン将軍が今村将軍の前で降伏する(1942年)。
1945年のはじめ戦闘は日本本土に移動した。8月にアメリカは広島と長崎に原子爆弾を投下した。1945年8月15日に日本は無条件降伏をした。
注:上記引用文で、( )内は原著での注、《 》内は翻訳者の注です。強調書体となっているのは元の書籍でも強調書体となっている単語・文章です。書籍から写真の転載は行っていませんが、この無条件降伏の写真は有名なものであり、高等学校教科書(訳)でも掲載されています。ご覧になりたい方はそちらをどうぞ。→オランダ軍の無条件降伏
中学校、高等学校向け教科書の訳も是非ご覧ください。
スハルト体制末期(1998年)に刊行された高等学校用歴史教科書の翻訳も掲載しています。
日本軍占領期のインドネシアについては、次のサイトも合わせて読まれることをお勧めします。
インドネシア大使館のWebに掲載されているインドネシア史のページを読んでみました。日本占領期についての記述を紹介します。